1990年代のはじめに、病識を「重なり合うが互いに独立した複数の次元からなる現象」と操作的に定義した上で、測定尺度としての信頼性と妥当性を確保した、いくつかの評価尺度が発表された。The Schedule for Assessment of Insight(SAI)やScale to Assess Unawareness of Mental Disorder(SUMD)に代表される、これらの尺度を用いて、病識と重要な臨床的要因との関連や、治療コンプライアンスに対する介入の効果についての研究など、数多くの研究が行われ、重要な知見が積み重ねられてきた。その一方で、評価尺度によって病識の定義や評価する側面が異なっているために結果が一貫しないこと、これが知見を積み重ねていくことを阻害する要因となっていることも指摘されている。病識評価尺度を用いて実証研究を行う際には、それぞれの尺度が病識をどのように定義し、病識のどのような側面を評価しているのかを把握した上で、研究目的に合った尺度を選択し、尺度の特徴を考慮して考察を行う必要がある。