人口増加の鈍化や高齢化の進行、インターネット通販の普及などを背景に、先進国の多くの主要都市で、中心市街地の歩行環境を抜本的に改善しようとする取り組みが進行している。また2020年からは新型コロナウィルス対策として、ソーシャル・ディスタンスを確保するために、歩行空間を拡大することが各地で試みられている。本論文はオランダのフローニンゲン市が2016年に決定した計画、『目的地としての中心市街地』に注目し、その意思決定プロセスを政治化、対極化、参加の視点から分析し、歩行環境の改善を実現する意思決定プロセスの特徴を明らかにすることを目的とする。同計画は中心市街地の歩行環境を改善するために、縦横に走っていたバスを中心市街地から排除することを大きな柱としており、高齢者や障害者から強い反発を受けた。同計画の意思決定プロセスを主として文献調査により分析した結果、調査ではなく政治がプロセスを主導していたこと(政治化)、及び、野党の要求に妥協することなく、与党が多数決で議決に持ち込んだこと(対極化)は明確に確認できた。しかし参加については、イベントの中で中心市街地について活発に議論することはあったが、本計画へ実質的に参加する機会は、極めて限られていたことが判明した。