神奈川近代文学館「吉野秀雄文庫」所収大正11年(1922)四月の日記には、慶応義塾大学経済学部へ進学した吉野秀雄が、なぜ経済学ではなく文学にのめり込んでいったかについて、その疑問を解く当時の彼の様子が克明に描かれていることがわかった。万葉集、芭蕉、良寛、伊藤左千夫、長塚節など歌の勉強ばかりをしていたわけではなく、北村透谷・島崎藤村の詩や評論といった近代文学やヨーロッパの文学、ロダン・レンブラント・マチスといった西洋美術に関する研究や演劇、歌舞伎に至るまで、およそ芸術全般に関する知識を幅広く貪欲に取り入れていたことがわかった。