高校の教科書であっても特に現代文に載せるような教材は、高校生を取り巻く社会や環境の変化やその時代その時代の問題意識や時流の変化等から少なからず影響を受ける。文芸評論家に関して言えば、かつて教科書の定番教材として使われていた小林秀雄、森本哲郎、中村光夫、福田恆存、花田清輝、大岡昇平、平野謙、吉田健一、秋山駿などといった戦後を代表する文芸評論家の文章も、近年ではほとんど採用されなくなった。同じように短歌の教材も与謝野晶子、石川啄木、斎藤茂吉、北原白秋といった古い歌人か、馬場あき子や俵万智といった現代歌人の作品ばかりで、その中間の時代の歌人はほとんど採用されなくなった。これでいいのかというのが論考のきっかけである。その中から吉野秀雄の歌に着目して、現代にも十分通用する普遍性を有することを証明するための論考である。