吉野秀雄のデビユー作となった「短歌百餘章」や『寒蟬集』のヒロインとして登場する妻はつ子と、吉野秀雄との関係に関しては、今まではほとんどわかっていなかった。神奈川近代文学館「吉野秀雄文庫」に収蔵されている、当時の未発表の日記が存在することがわかり、それらの日記や手紙から、二人の関係を解き明かし研究したもの。吉野秀雄は、富岡尋常小学校時代から思いを寄せていた栗林はつ子に対して、大正9年11月25日付の手紙で、長年にわたる彼女への思いを告白している。そして、その四日後の11月29日には、はつ子からも返事が届き、吉野秀雄は歓喜する。自由恋愛が認められていなかった時代の恋愛のあり方のせつなさが、リアルタイムによく伝わってくるようである。