神奈川近代文学館「吉野秀雄文庫」所蔵『日記 大正九年十二月ヨリ(一―一九六)大正十年三月三日ニ至ル雑記(一九七―)』によると、正月にあれほど熱望していたはつ子との再会はかなわず、それどころか、はつ子の結婚の噂まで耳にして、吉野秀雄は激しいショックを受ける。自分と結婚の約束を交わしたのは嘘だったのか、正月に会えなかったのは、既に結婚の話が決まっていたからではないか等々、その日記には、当時の吉野秀雄が苦悩する様子が克明に綴られている。はつ子に真相を確かめるために手紙を書き、はつ子からの手紙が届くまでは、それこそ狂わんばかりの悶々とした日々を過ごすのであった。そして、やっと念願の手紙がはつ子から届く。吉野秀雄の1月18日の日記の内容から、はつ子の結婚話が駄目になったのか、単なる噂話に過ぎなかったのか、いずれにせよはつ子はまだ誰とも結婚しないということがはっきりしたようである。この「彼女の件に関する件の解決」というタイトルは、大正10年1月2日~3月31日までの三ヶ月間にわたる日記全体に対してつけられたものなのだが、いったい何がどのように「解決」したのかについては、実は具体的には何も書かれていない。二人が結婚というゴールにたどり着くまでは、まだまだ長く困難な道のりが続くのであった。