本論の目的は、アフリカ系アメリカ人(以下、「黒人」)女性の性的奴隷の証言を記したスレイヴ・ナラティヴを取り上げ、これらの作者の人種と性別が物語のメッセージ性にどのような影響を与えているか明らかにすることである。奴隷制時代、奴隷女性は白人男性の肉体労働者、性的労働者という二重の搾取に晒された。奴隷制では性的暴力が横行し、女性たちは繰り返されるレイプ、妊娠、出産に耐えることを余儀なくされた。本論では性奴隷を描写したナラティヴを黒人男性(ダグラス、ブラウン)、白人男性、黒人女性の3つの視座から読み解いた。筆者の視点や目的が異なるナラティヴはそれぞれ異なるトーンや文脈を提供している。特に女性自身の語りでは「性的強迫」を可能にした社会経済システムや人権侵害に直面した女性たちのレジリエンスが読み取れる。