19世紀の奴隷制廃止以前に発行された奴隷による体験記「スレイヴ・ナラティヴ」(slave narratives)に対して奴隷制を題材にした現代作家によるフィクションは「ネオスレイヴ・ナラティヴ」(neo-slave narrative)と呼ばれている。その一つであるマーガレット・ウォーカー(Margaret Walker)の小説『ジュビリー』(Jubilee, 1966)では、南北戦争前後のアフリカ系アメリカ人(黒人)女性の苦難がその子孫(女性)の視点から語り直されている。著者は、祖母から伝聞した曾祖母ヴィリーの半生を調べ、文字にして歴史に刻んだ。本論では、語り継がれた記憶が小説になる過程とそれによって語り直されるもう一つの黒人女性史を読み解いている。