PP.66-79
森鴎外の『舞姫』にベルリンのウンテル・デン・リンデンとブランデンブルク門、噴水、凱旋塔に関わる叙述があるが、国文学者一般の議論は、鴎外がこのような諸景物を感性的に目撃することなく、その叙述をしているというのが支配的である。本論は、まず、森鴎外がベルリンに滞在した当時、問題の諸景物がすべて『舞姫』の叙述どおりに存在し、実際にブランデンブルク門の彼方に凱旋塔が見えることを、当時の写真資料を用いて実証した。さらに、このような事実をふまえることなく、オリガス、前田愛によるリアルな遠近法を概念的な似非遠近法に変質させる小泉浩一郎の解釈法に批判を加えた。