PP.41-61
ヘーゲルの『法の哲学』における「家族」論は、「生命ある善」という人倫的実体たる家族を解明したものである。家族の出発点は婚姻だが、そこには自然的な類的過程を「精神的な愛」に転換する機能がある。ヘーゲルは、この愛を持続させるための物質的基盤にまで配視し、それを夫婦共同財産制として位置づける。今日の家族論の主流はそうした物質的基盤を破壊するところに狙いを定めるが、その真意がエゴイズムによる偽善的な愛にあることを究明し、翻ってこれに対抗するヘーゲルの家族論には今日的な意義が充分にあると論じた。