アンソニー・トロロープは古き良き時代をノスタルジックに描いた保守的な作家としばしば言われるが、彼は時代の流れに敏感であり、多くの小説において、彼がまさに生きている時代の変動していくイギリス社会を鋭く捉えていた。本稿では、トロロープの代表作である六作の「バーセット年代記」と取り上げ、それらの作品に描写されている時代の変化に着目して、トロロープが失われていく伝統的な価値観に敬意を示しつつも、変化を受容する姿勢をとっていたこと、特に台頭する商業社会を否定せず、むしろ肯定的、進歩的な考えを持っていたことを論じた。