アンソニー・トロロープの晩年の小説、『ワートル先生の学校』は、「バーセットシャー年代記」のように広く読まれてはいないが、トロロープの最も「過激な」小説といわれる点、また、彼の「リアリスティックな小説家」としての自負が認められる点で、注目すべき作品である。トロロープはこの小説で重婚というテーマを扱い、男女の関係をめぐるダブル・スタンダードに疑問を突きつけた。一方、「重婚」というテーマを扱いながらも、サスペンスや謎の保持によって読者の興味を引くことを拒み、キャラクターを重視する姿勢を示したトロロープは、ウィルキー・コリンズらのいわゆる「センセーション・ノヴェル」とは異なる独自の世界を創造した。