14頁(pp.53-66)
トロロープの「オーストラリア小説」2作を取りあげ、これまであまり研究がなされていないトロロープとオーストラリアの関係を探った。トロロープの小説におけるオーストラリアの描写には概して保守的なヴィジョンが認められる。例えば、主人公HarryとJohnがオーストラリアでの困難な生活を切り抜けられたのは、「イギリス紳士」としての資質を保持し続けたことと強く結び付けられている。しかし一方では、こうしたイングリッシュ・ミドルクラスの価値観の優越を謳う結末に対して、トロロープが疑問や限界を感じていたことも認められる。特にJohn CaldigateのEuphemia Smithのキャラクターはイギリス社会のダブルスタンダードを露呈し、小説の中心となる価値観を脅かす点で重要である。