20世紀前半を代表する言語学者 Otto Jespersen は、名詞派生動詞あるいは形容詞派生動詞 + 人称代名詞 it の形を持つ慣用表現における it は、名詞あるいは形容詞が動詞化されたことを示す標識であることを指摘した。本論文では、この Jespersen の考察に加えるべき次の事実が同形表現に観察できることを指摘した:①名詞派生動詞 + it 句では it が省略できる場合とそうでない場合がある② it が省略できるのは方向・場所を表す句と共起する場合である③方向・場所を表す句と共起しない場合は、it は省略できない④形容詞派生動詞 + it 句では、方向・場所を表す句との共起の有無とは関係なく、it はいつでも省略できない。