2015年3月のイスラエル総選挙では極右・宗教政党を含む右派が勝利し、第四次ネタニヤフ内閣が成立した。この結果は、1970年代末までは「周縁」的と位置づけられてきた極右が1980年代以降イスラエル政治において存在感を増し続けている、つまり脱「周縁」を遂げてきた長期的傾向を再確認させた。本稿はイスラエル極右のこの脱「周縁」現象に注目し、その原因と経緯の一端を考察する。具体的には、イスラエル政治の右傾化の原因として世界的な右傾化の趨勢を念頭におきつつ、イスラエル極右のイデオロギーの「正統性」と説得力、右派政権のポピュリスト的性格と安定的支持基盤としての旧ソ連系移民の存在、という二要因に焦点を当てる。更に具体的には、カハネとリーベルマンというイスラエル極右の二人の政治家の思想とその背景を、彼らの出身国であるアメリカ合衆国と旧ソ連における多文化共生社会の崩壊現象と結び付けて考察する事により、イスラエル極右の思想が実は孤立的・「周縁」的なものではなく、シオニズム的正統性を持つために有権者に対して説得力を持ち、しかも欧米における多文化共生社会の挫折と結び付いて成長しイスラエルへ「移植」された思想である事を論じる。この論考は、直接的にはイスラエル政治の右傾化とパレスチナ紛争の激化についての論考であるが、結論で述べるように、より広くは欧米の多文化共生社会の失敗が人々の思考の枠組みに地域横断的に影響を与え、中東の既存の紛争を激化させるという「危険な連動」(「イスラーム国」現象も含めた)が顕在化しつつある現状を指摘したものである。