本稿は、今日普遍的価値観という非歴史的な視点から捉えられがちな民主主義の「西欧的」起源について、ウィルソン型のアメリカ外交の思想的源流を探る事を念頭において考察するものである。具体的には、21世紀に至る米国の、他国に民主化を要求する介入的対外行動がとりわけ中東イスラーム地域との摩擦の一因となってきたという観点から、その様な対外行動の原型を明確に確立したと考えられるウィルソン米大統領の外交に類似した米国外交を「ウィルソン型外交」と呼び、その思想的源流を探るという目的を持って書かれた一試論である。米国や西欧諸国が多数決原理を厳密に適用する<米国・西欧型民主主義>を非欧米世界に絶対的価値観として押し付けがちなのは、民主主義が近代に確立される過程で「西欧的」性格を獲得した事と関連があり、そこにおいては西欧性が、数学的世界観と結び付いた普遍性と混同されてきた。本稿はそうした思考が西欧に芽生え育まれた過程を、独自の視点で試論的に考察する。