本稿は、ジェイムズ・ミルの主著The History of British India(1817)におけるヒンドゥー・ムスリム両社会の分析に焦点を当て、功利主義思想家としての彼の、イギリスのアジア支配についての考え方の一端を考察するものである。本稿の底流にある関心は、私が一連の研究で追求している20世紀のウィルソン外交に関わっており、ウィルソン外交の精神につながる思想家としてJ.ミルを捉えるというものである。欧米の民主主義国がどの様に自己正当化を行ってアジア支配を深化させたのかという、ウィルソン以降の米国の中東政策のあり方にも関わる示唆的内容を同書は含んでおり、特に同書の中のヒンドゥー社会とムスリム社会の比較・分析に関わる部分を、ウィルソンらに受け継がれる<近代西欧のアジア認識>の一つの祖型として分析した。