本稿では20世紀初頭に樺太へ渡った日本語の方言が一世紀の時を経て受け継がれ、変容している姿を考察する。樺太入植者の多数派を占めていた東北や北海道出身者の方言特徴として語中有声化・語中鼻音化・語頭半有声音化を中心に分析した。日系/朝鮮系/日朝系二世~四世に対して行った調査のうち、語彙発話の音声変異と話者情報について統計解析し、(1)形成当時の樺太日本語は東北・北海道出身者の方言を基盤とするコイネーであったこと、(2)語中鼻音は三世まで、語頭半有声音は四世まで継承されていること、(3)語中有声化は朝鮮系と関連付けられる傾向にあること、(4)語中有声化を避けようとする過剰修正の結果、語中無声化や促音の挿入が生じた可能性があることを示した。