本稿では、一九九〇年代に登場したIターンについて、登場から三十年が経過したことを踏まえた現代的な課題について、山形県西川町大井沢の事例をもとに検討を行った。まず、Iターンが登場し二〇一〇年代にブームのように広がっていく様子を概観したうえで、Iターンに関する議論を整理した。そのうえで、Iターンに関わる現代的な課題として、移住後のライフステージ変化への対応や移住を支える価値観の変化、そして、政策的な支援が広がるなかでIターン過程がどのように変化しているのかを提示した。
そのうえで、Iターン者は移住先をライフスタイル実現のための手段として捉え、そのことが居住地の変更や事業の継承、世代を超えたメンバーシップの非獲得と関係していることを明らかにした。また、移住理由については、時代を問わず農山村の自然環境や景観が評価され、また、自律性の高い暮らしが求められていることを示した。また、自然環境の評価は移住後に日常化することがあるものの、移住後に目に見える範囲の人間関係や文化が評価されることが定住につながっていることがわかった。また、政策的な支援においては必ずしも用意されるとは限らない、地域への橋渡しや地域社会における生活や就業に関する詳細なサポートの存在が、移住者受入れ・定着に重要であることが判明した。