ネヴィンソンのリトグラフ《波》は、西美のほかに、イェール大学附属英国美術研究所(以下、YCBA)、大英博物館、メトロポリタン美術館(以下、MET)にも所蔵されている。YCBAと METは揃って、この作品を葛飾北斎の《富嶽三十六景 神奈川沖浪裏》(以下、「大浪図」)(図版3)と結びつけ、浮世絵からの影響を強調するが、本稿では、YCBAと METの所見とは距離を置きつつ、《波》の着想が北斎の大浪図ではなく尾形光琳の松島図に由来すると措定して、琳派受容がネヴィンソン個人を超えて彼と同時代の英国の前衛美術画家たちの制作にも影響を与えていたことを跡づけた