本稿では、美術・音楽・文学・演劇などそれまで個別発展してきた芸術分野が相互の影響を及ぼし合い、ひとつの芸術運動として展開する契機となった20世紀末以降のドイツ表現主義運動について、ワシリー・カンディンスキーを中心に考察した。ドイツ表現主義運動の背景としては、当時のペシミスティックな社会状況が指摘されてきたが、本稿では、当時の自然科学の動向に注目した。カンディンスキーは、神秘主義に興味をもち、作品において黙示録的・終末論的テーマに関わる作品が多いことも指摘されてきた。しかし、自然科学の発達の影響が、カンディンスキーの内的必然性による創造性を強化し、絵画の抽象化に強く作用していたことを指摘した。