日本語では可能表現を使い、中国語では使わないこと、また逆に中国語では可能表現を使うのに、日本語では使わない言語現象が存在している。この事実から、日中可能表現の意味範疇が完全に一致しておらず、何らかのずれが生じているとわかる。本稿は、基本となる「可能」概念の意味を再確認したうえで、認知意味論の視点からアプローチしてコーパスなどから収集したデータについて考察した結果:(1)中国語と異なり、日本語では、過去の出来事を描写時に可能表現を用いる場合がある、(2)中国語にはなく、日本語文法で特有な有対自動詞表現に対して中国語では可能表現のかたちで対応している、といった点を明らかにした。したがって、日中可能表現の意味範疇の不一致の原因は日中文法規則の違いによるものだと考えられる。