10年間のひきこもりを経験し、壮絶な苦難を経て劇的な世界観の変遷を遂げたA氏のインタビューを行った。本研究の目的は、(1)A氏の世界観の変遷を明瞭に捉えること、(2)“普通”へのとらわれから自由になる可能性に関するA氏の視点を整理することである。筆頭筆者はナラティブ研究法の視点を取り入れてA氏インタビューを行い、その結果を第二筆者と協議するという方法を用いた(三者往復インタビュー法)。結果として、人は「眼鏡で見る風景」で一喜一憂しているという事実に気づき、眼鏡を外した「目玉で見る風景」を手にしたというA氏の世界観を捉えた。また、「目玉で見る風景」は常にあるのだから「可能性」ですらない、というA氏の視点が整理された。考察として、ひきこもりをめぐる社会規範の強さと、支援者の価値観も変容を迫られることを認識する重要性について論じた。
著者:板東充彦、高松里(共同研究につき、本人担当部分抽出不可能)