著者:穂苅友洋・木村崇是
日本語には「私はカバンを盗まれた」のような間接受動文があり,日本語話者はこれに相当する*I was stolen my bagのような文を正しいと判断することがある(Inagaki et al., 2009)。本稿では,この誤りを引き起こす学習者の文法,とくに,学習者母語の役割を明らかにするため,日本語話者10名と,同じく母語に一部だが間接受動文がある韓国語話者10名に容認性判断タスクを行った。実験の結果,どちらの話者も英語では非文法的な間接受動文を許しただけでなく,他動詞では間接受動文を許さないが,自動詞(例:*I was cried by my son)ではこれを許す参加者もいた。この結果は,自動詞では間接受動文が作れないという韓国語の性質からは予測できない結果であり,この誤りが単に母語で許されるパターンに従っているわけではないことが示された。この結果について,穂苅(2016)が日本語話者の英語文法について提案している,受動形態素がもつ外項付与能力の転移と,学習者独自の格吸収規則という観点から説明を行う。