著者:竹田実夢・穂苅友洋
Izumi and Lakshmanan(1998)以来、日本語を母語とする英語学習者は、一見すると日本語の間接受動文(例:「私は息子に泣かれた」)に相当する英語受動文(例:*I was cried by my son)を産出・容認することが数々の研究で報告されている。しかし、この誤りに 関するこれまでの研究(例:穂苅, 2016;Inagaki et al., 2009)では、この誤りが間接受動文以外の学習者母語の性質によっても生じうることは想定されてこなかった。本稿では、日本語母語話者に対する実験から、この誤りが日本語の間接受動文の影響だけでなく、日本語の使役受動文(例:「私は息子に泣かされた」)の影響も受けていること、母語の影響の現れ方は動詞の種類(自動詞・他動詞の区別)によっても異なることを実証的に明らかにする。そのうえで、第二言語習得研究一般への示唆として、表面上同じ誤りであってもその原因は複数存在しうる(若林ほか, 2018)こと、学習者母語の影響の出現・消失は、さまざまな要因に左右されうることを論じる。