英語“hospitality”がどのようにしてカタカナ表記の「ホスピタリティ」として普及するに至ったのかについて、幕末から昭和初期にかけて、言葉の受容過程を明らかにした。聖書の英訳では“hospitality”は「慇懃(ねんごろ)にせよ」あるいは「懇ろ(ねんご)に待(もてな)せ」という言葉で訳された。しかし明治中期頃になると英米へ留学経験のある知識人たちが「ホスピタリチー」というカタカナ表記を用いるようになる。一方で「接客」という言葉はマナー本などの実用書のなかの言葉であった。大正期以降は「ホスピタリチー」が使用される場面が少しづつ広がり、昭和初期には医療分野や観光分野で「ホスピタリチー」というカタカナ表記が散見されるようになった。ところが1940年代にはいると英語は「適性語」であるとして使用が禁止され、「ホスピタリチー」という表記は姿を消したのである。