国際移動労働者を大量に送出するとともに、多くの国民が国内移動の経験をもつフィリピンにおいて、比較的最近まで「伝統的な」生活を維持してきたとされる先住民社会でも近年では「社会的ネットワーク」を駆使して自らの生活向上を図るようになっているという事実に注目し、そうした移動を「移動する人の視点」から検討することで、経済のグローバル化がもたらす人の移動過程の変容について明らかにした。その結果、先住民たちは、したたかにグローバル化によってもたらされた新しい状況にうまく適応するための試みとして社会的ネットワークやソーシャル・メディアを利用しており、それは生活の向上だけでなく、ディアスポラな状況におかれる彼らのアイデンティティと文化の崩壊にも対応するものとしても機能していることが分かった。