これまで人の移動に関する研究では、送り出し国にとって、国際移動労働こそが国内の余剰労働力の調整と外貨獲得における最も効率的な方策のひとつであるとされてきた。しかし実際には、よりよい生活を求めての移動は、とりわけ発展途上国において国内移動が顕著であり、この国内移動がグローバル化の進展、とりわけ経済のグローバル化によって地域社会に大きな影響を及ぼすようになっている。そこで本稿では、フィリピンで最も政治的、社会的、文化的に阻害され周縁化されてきた先住民社会を取り上げ、そこでの低地民の彼らの土地への国内移動が、近年、先住民と低地民との人間関係に大きな変容をもたらしつつあるという事実に注目し、それが先住民の「伝統的」な社会にどのような影響を与えているかを分析することで、経済のグローバル化がもたらす人の移動の別の側面を明らかにした。B5版。