文学のひとつの分野に「説話文学」というものがある。説話文学とは説話や説話集を集めた説話集をひとつの学問領域としてとらえた概念である。説話集の制作者は作者と呼ばれるよりも編者と呼ばれることが多く、これは説話集の制作者が編集(エディット)という行為を通して高次の文学的営みを行っているからこそである。従って、説話集には二重三重の編者の仕掛けを読み解く面白さも存在する。そして、説話は人間をどこまでも見つめている。例えば、和泉式部と藤原保昌、平清盛を描いた『十訓抄』や『沙石集』の説話からは伝説化・偶像化された超人的存在だけではなく、等身大の極めて人間的な姿が浮かびあがる。これがそのまま日本中世の時代というものを映し出している。