筆者は現在シンクレティズム的視座からニコラ・プッサンの晩年の作品の再検討を行う研究に取り組んでいるところであり、《ピュラモスとティスベのいる嵐の風景》(1651年、フランクフルト、シュテーデル美術館蔵)はその中心をなす研究対象である。本稿では本格的な解釈に先立つ予備的考察の一環として、第一に典拠となったオウィディウス『変身物語』巻4に関する17世紀の仏訳テキスト、それに付随する寓意的解釈のテキストを洗い出す作業を行った。並行して同主題の先行作例の収集の作業と図像学的な考察を行ったところ、ピュラモスとティスベの図像はおおよそ六つの類型に分類が可能であることが判明した。5番目の「ティスベの自害」が最も作例が多いのにもかかわらず、プッサンは4番目の「ティスベの死せるピュラモスの発見」を選択しており、その意図や意義を探る必要が判明した。また、プッサンの作品の特徴としてピュラモスが大量の血を流していることが観察できるが、先行作例の比較からは極めて珍しい特徴であることが判明した。