本稿では、ジャック=ルイ・ダヴィッドの≪ヘクトルの遺骸に対するアンドロマケの苦痛と後悔≫(1783)について、アリストテレス『詩学』との関わりを明らかにすべく、「あわれみとおそれ」を引き起こす出来事の再現のための工夫の分析を試みた。その中でダヴィッドがタイトルに「苦痛」に「後悔」を加えるにあたり、チェーザレ・リーパの「後悔」の擬人像が参照された可能性を新たに提起するとともに、苦痛と後悔だけではなく、来るべき苦難に対する加護をアンドロマケが祈っている姿に描かれることで、ヘクトルを失った妻が「あらわれみとおそれ」いっそう鑑賞者に誘う存在に高められている配慮が見いだされることを示した。