本稿では、18世紀フランス絵画における歴史画、特に「あわれみとおそれ」を喚起する出来事の描写に焦点を当て、その変遷と代表的な画家たちの作品を考察する。18世紀前半の歴史画は安息感を与えるものが主流であったが、1747年の歴史画コンクールを機に復興の動きが見られ、フラゴナールやダヴィッドといった画家たちが「あわれみとおそれ」を喚起する作品を制作した 。
フラゴナールの《カリロエを救うために自らを生贄に捧げる大祭司コレシュス》では、登場人物のポーズなどにベルニーニの彫刻からの影響が見られるという指摘がある一方で、ミケランジェロの彫刻も着想源となっている可能性を示唆した。
ダヴィッドの《ホラティウス兄弟の誓い》は、登場人物の表情にラオコーン群像との類似性を指摘し、構図や人物配置を工夫することで、コルネイユの悲劇に内包される愛国心と家族愛の葛藤という「あわれみとおそれ」を強く喚起する作品に仕上がっている ことを指摘した。