本論では、ブッサンの《ピュラモスとティスベのいる嵐の風景》という絵画作品に関する、近年の重要な研究を概観する 。
初期の研究では、この作品はストア哲学的な「運命のいたずら」を描いたものと解釈されていた 。しかし、1980年代半ば以降の研究では、湖面の静けさをストア派の理想とするアパテイア(不動心)の象徴と捉える解釈が主流となった 。
さらに、近年の研究では、キリスト教的な観点から、湖面を「神の恩寵」や「天のエルサレム」の象徴と解釈し、地上の混乱との対比で精神的な救済を暗示するものとする説も提示されている 。
しかし、これらの解釈では、前景に描かれたピュラモスの大量の流血という要素が十分に説明できていないという課題が残されており、今後の研究でこの点についてシンクレティズム的な解釈を試みることで、より包括的な作品理解が期待される 。