寓意としての世界:犬のまなざしが浮かび上がらせる「裏返しの笑い」
『吉岡弘昭展』図録(碧南市藤井達吉現代美術館)
吉岡弘昭の芸術は、社会の弱者や周縁的存在への共感を、「裏返しの笑い」という独自の寓意表現によって描き出した点に特徴がある。1960年代末、版画界が多様化する中で、吉岡はドライポイント技法を選び、鋭い線と陰画的表現を通して、人間の苦しみや怒り、不条理を視覚化した。やがて犬や鳥などのユーモラスなモティーフを用い、怒りや悲哀を詩的で軽やかな表現へと転化していく。作品に繰り返し現れる犬のまなざしは、「耐えながら共に生きる弱者」の象徴であり、吉岡芸術の核心を成している。